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『キャッシュレス化対応のその後 ~POSレジは導入したけれど~』新保康夫(ITコーディネータ)

JCGReport_No.005

キャッシュレス化対応のその後
~POSレジは導入したけれど~


新保IT経営研究所

ITコーディネータ 新保康夫

1 はじめに

消費税10%引き上げにともない、キャッシュレス化によるキャッシュレス・ポイント還元事業が実施され、多くの店舗等にPOSレジが導入されました。キャッシュレス・ポイント還元事業が2020年6月末日に終了し、小規模事業者や中小企業の事業者は、このPOSレジをどう活かしていけばよいのかを考えておられます。
そういえば、ITベンダ企業の営業マンから「POSレジのデータを使えば、経営に役に立ちますよ」と言われたことを思い出しています。「実際、どうすれば使えるのか」と思案されている事業者もおられるでしょう。よくわからないので、まずは、POSレジ導入を進めていた商工会議所や商工会に尋ねてみようとされている事業者もおられるでしょう。
実は、簡単にPOSレジのデータを使って経営に活かすことは出来ないのです。ここでは、そのことについてお話しすることにしましょう。

2 ITベンダを言い訳にしてはいけない

2.1 ITベンダはいつわりを言っていない

ITベンダ企業に言われた「POSレジのデータを使えば、経営に役立つ」ということは「いつわり」ではありません。しかし、どのようにPOSレジに情報を入力しているかによって、得られる情報は大きく異なってきます。
POSレジ導入時に、費用面や実際の業務面から得られる情報を限られたものにしていませんか。例えば、ボールペンとしましょう。メーカーごとのそれぞれの製品ごとに商品に番号を付けて、その単位でレジをした場合とボールペンだけで商品に番号を付けた場合では、得られる情報は変わってきます。前者は、個々のボールペンの販売情報が細かくわかります。在庫にその情報が渡れば、在庫数を減らすことができます。後者は、ボールペンがどれだけ販売できたかがわかりますが、どのボールペンが販売されたかはわかりません。在庫にも情報を渡すことはできません。導入時、面倒とか大変とかで後者にしていませんか。それでは、「経営に役立つ」ものを「経営に役立たない」ものにしています。
このように「何を」得たいのかは、発注する事業者しかわかりません。ITベンダ企業まかせでは求めている情報は得られないのです。

2.2 「どのように」経営につなぐかを決めていますか

POSレジにデータは確かに入っていますが、これをどのように経営と結びつければよいのでしょうか。これも、発注する事業者が明確にしておかなければなりません。もし、ITベンダ企業まかせにしておくと、一般的な分析の表やグラフを体裁良く見せてくれるでしょう。事業者は、「確かに、表やグラフはでているのだが」と思いつつ、何か違うように感じるのではないでしょうか。実は、「どのように」情報を見せるかがポイントなのです。この見せ方は、画一的でなく、ある程度変えられることが必要になってきます。このため、表やグラフになる手前の情報をデータとして提供してもらい、表計算ソフトやWeb型データベースソフトに取り込み、「経営に役立つ」ように見せることが必要でしょう。
このため、事業者は、表計算ソフトを使えるようにしておきましょう。
ここまでのお話しから、小規模事業者であっても事業者がしっかりと決めておくことが大切であることが、ぼんやりでも理解していただけたでしょうか。決して、ITベンダを言い訳にしないようにしましょう。

3 顧客情報がありません

3.1 会員カードはありますか

POSレジは基本的に商品販売情報を持っています。そこから得られる情報は、商品に関わる情報と日時などになります。ところが、事業者からお話しを伺うと、「年代別」や「地域別」の情報が必要なものがあります。ネット販売や通販などであれば、商品を送るため、氏名、住所、電話番号が必要であり、ネット販売の時は受注確認のため、メールアドレスが必要となるため、これらの情報を管理しておけば地域別などの情報をとることができます。
ところが、店舗の場合はどうでしょうか。顧客に商品を直接販売するのですから、先ほどの情報を得ることは難しいことになります。そこで、顧客情報を得るための方法として会員カードを発行があります。この時、POSレジの機能で会員管理ができる機能を忘れずに入れておきましょう。
顧客が会員カードを持っても良いというメリットを提供できないと会員カードを持ってもらうことはできません。また、顧客情報として、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、性別、生年月日などあれば、いろいろな分析はできますが、昨今の個人情報の取扱から、それぞれの項目を記載してもらうために、顧客が得られる特典を準備しておかなければなりません。
また、会員カードを発行するのですから、いろいろな費用も発生しますし、業務が増えるので、全体的な業務を見直し、負荷がかからないようにすることが大切です。
さらに面倒なことに、個人情報保護の観点から自社の情報セキュリティをしっかりとマネジメントできるようにしておかなければなりません。
顧客情報を得るためには大変ですが、それだけ、経営にとって重要な情報であると言えるでしょう。

3.2 会員カードを使ってもらえていますか

会員カードがあっても、購入時に提示してもらわなければ、商品情報と顧客情報は結びつきません。自宅や職場の引出の中にしまっているとか、財布の中に眠っていてはいけません。使ってもらうようにしなければなりません。そのために、スタンプやポイントがあります。ポイント管理する場合は、POSレジにポイント管理の機能を用意しておく必要があります。
会員カードの持っている顧客が8割以上、会員カードを提示してもらえれば、スポットの顧客との構成や再度、来店し、購入していただく割合がわかるようになります。これがわかると、スポットの顧客への営業戦略や会員の顧客のリピート回数を増やす営業戦略などを立案することができます。また、ほとんどの顧客が会員の場合は、新規顧客獲得の戦略を考えることになります。
商品情報と顧客情報が結びついていると顧客の属性と商品の関係を見ることができ、より細かな戦略を立てることができます。

3.3 顧客情報は生きていますか

顧客情報があっても、生きた顧客情報でないと意味を持ちません。このために、定期的に、DMやメールを発行し、届かない顧客の情報を整理します。店舗であれば、近隣の情報は、それとなく入ってきます。確かな情報であれば、顧客情報に反映しましょう。また、よく利用していただく顧客であれば、顧客情報に関わることが聞こえていれば、直接、やんわりと確認して、反映しましょう。
会員として登録されていても、実際に、長期にわたり、購入していただけていない顧客については、再び来店していただける仕掛けを考えましょう。長期未購入の眠ってしまっている顧客の一部が再び購入していただくことで、真の生きた顧客情報にしておくことも大切です。
生きた顧客情報と商品情報を分析できれば、事業者の経営や事業に大変役立つものになります。そのために、顧客情報は生きたものにしておかなければなりません。

4 事業者に求められるもの

今までのことがらできたから、POSレジのデータを使って経営に活かすことができるのでしょうか。確かに、役立ちそうな情報はあるのだが、何か1つ足りないように感じるのではないでしょうか。実は、プラスする情報が必要になります。これは、自社の経営戦略や事業戦略から見て、必要となる情報を入れておかないといけないからです。例えば、写真スタジオで、この人がメイクを必要としているかがわかれば、事前の予約時にメイクをこちらから提案することやキャンペーンでメイク無料を行い、集客を図るなどができます。それが、事業者にとって有用な情報であれば、メイクの情報を持つようにします。
POSレジのシステムでは、自由に設定できる区分の項目が1つはあるでしょう。そこを使って行えば、システムを改修することなくできます。
そして、次に事業者に求められるものは、POSレジのデータからどの視点、とのように加工すれば良いかを見極める目です。これは、当初、いろいろと試行錯誤していただいて、その目を養っていただくことが大切です。試行錯誤を行っていると、突然、こうすれば良いのではという道が見えてくるでしょう。そうなれば、もう大丈夫です。うまくデータを活用できるところに、自然ときています。
このように、自社の経営戦略や事業戦略から見て、必要となる情報を追加するための方法のノウハウとPOSレジのデータからどの視点、とのように加工すれば良いかを見極める目のスキルが求められます。
難しいように見えますが、前者は、経営戦略策定の方法を知っている方やそのような研修を受講された方ならできるでしょう。後者も、データを分析する研修などを受講された方であればできるでしょう。不安がある方は、外部の専門家のファシリテーションを受けるとよいでしょう。
これにより、POSレジのデータは経営に活かす宝石の原石なります。是非、POSレジのデータを使って経営を活性化し、継続していくようにしましょう。

新保IT経営研究所
代表 新保 康夫 <ITコーディネータ>
住所:〒531-0071
大阪府大阪市北区中津3-28-7
URL:https://www.shimchan.com/blog/

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