JCGReport_No.004
茂永崇(弁護士)
-相続法改正(遺留分)-
平成30年7月,民法の相続編が改正されました。その大部分は令和1年7月1日から施行されるものですが,配偶者居住権及び配偶者短期居住権等については令和2年4月1日から,自筆証書遺言保管制度は令和2年7月10日から施行されました。
改正されたのは,配偶者居住権や遺産分割に関する見直し(遺産分割前の預貯金債権の払戻など),遺言制度の見直し(自筆証書遺言方式緩和や遺言書保管制度新設など),遺留分制度の見直しなど,多岐にわたります。
このうち,事業承継と関連の深い改正部分は,遺留分制度の見直しです。改正前は「遺留分減殺請求権」と呼ばれていましたが,改正後は「遺留分侵害額請求権」と呼ばれるようになりました。
ある会社の社長(A)が,後継者として従業員(Y)を指名し,Yに会社の事業用不動産(A個人の所有名義)を遺贈しましたが,この遺贈がAの長男Xの遺留分を侵害していた場合を例にとります。なお,遺留分を侵害しない形でYに遺贈することができれば問題は生じないので,まずは遺留分を侵害しない形での遺贈が可能かどうか検討することが重要です。
改正前の遺留分制度のもとでは,遺留分権者が遺留分減殺請求権を行使すると,遺贈や贈与の全部または一部が無効となり,遺贈等の目的財産が遺留分権利者と受遺者等との共有になることとされていました。先の例では,Xが遺留分減殺請求権を行使すると,事業用不動産は後継者Yと長男Xの共有になります。このような結果は,Yを後継者にしたいAの遺志に反するのみならず,Yがその事業用不動産を会社の事業のために利用することが困難になる事態が想定されます。円滑な事業承継や事業承継後の経営に支障が生じます。
そこで,改正民法は,遺留分を侵害する遺贈等の効力を無効とはしないこととしました。そして,遺留分権利者は,遺留分に関する権利を有するものの,その権利を行使することにより,遺贈等を受けた者に対して,遺留分を侵害する部分に相当する金銭を請求することができる,としました(民法1046条1項。遺留分侵害額請求権)。上記の例では,Xが遺留分侵害額請求権を行使しても,事業用不動産がXYの共有となるのではなく,事業用不動産はYの所有のままで,XはYに対し,遺留分侵害額に相当する金銭を請求することができるにとどまります。
もっとも,この「遺留分侵害額に相当する金銭」をYが直ちに用意することができるとは限りません。そのため,改正民法では,遺贈等を受けた者(Y)の請求により,裁判所が,その全部または一部の支払につき相当の期限を許与することはできるものとされました(1047条5項)。Yに預貯金等の資金が豊富にある場合はこのような問題は生じませんので,Yに事業を承継させる場合には,Yが遺留分侵害額請求権を行使されても,侵害額に相当する金銭をYがXに支払うことができる状態を遺言や保険等により作出しておくとよいでしょう。
松村・茂永法律事務所
弁護士 茂永崇 <大阪弁護士会所属>
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